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行きつけだったアニソンバーの店長が辞めて行くのを辞めた

前回の記事にもチラっと書いたが、行きつけだったアニソンバーに通わなくなった。

cubeym0520.hatenablog.com

ポイントカードが10万円分超えて自分で引いたのも理由の1つではあったが、それ以上にきっかけがあるとするならば店長が辞めたからだろう。

 

そのアニソンバーは全国に店舗を構えていて、自店の地下アイドルを抱えているという、たぶん、それなりにその界隈では知名度がありそうな店だった。働いているのも10代後半~20代前半の女性だけである。

 

最初は友人に連れられて行ったのだが、すぐにそのオタク特有の人生すべてがぎこちない人しかいないその空間に安心感を感じて2回目からは自分一人で行っていたと思う。

私のキャラクターもあるのだろうが、2回目にして名前を憶えられた。

名前や仕事などの話をよくしていたその女性が店長だと知るのは数か月後のことだった。

ポイントカードには名前を書いてくれるし、2か月弱ぶりに行ったとしても「あ~やべ君お久しぶり~!」と入り口で出迎えてくれた。

店長に限らず、店員(その店ではキャストと呼ばれていた)も私のことは「やべくん」と名前で呼んでくれていた。

私はいつも1杯目はブラックルシアンなのだが、店の店員たちは私が席に座ると「ブラックルシアンでいい?」と聞いてくれた。いわゆる、「いつもの」というやつである。

 

アニソンバーで「いつもの」が通じることが自分で気持ち悪くもあるがそこは今回置いておく。

 

店長は名前だけでなく、仕事まで覚えてくれていて

「やべくんお仕事どう?」「あそこの席に座ってる○○さん、知り合いじゃない?」

なんていう具合でいろんな部分で気を使ってくれていた。

 

ある日、twitterを見ているとアニソンバーの公式twitterにお知らせの文面の画像が張られていた。

「2019年〇月〇日をもちまして、福岡店の店長である○○は体調の都合により退職することになりました。」

たしかに店長は夜7時から朝の5時まで店で過ごしてはそのあとで地下アイドルとしてのレッスンをしていたようだったので体調を崩してもおかしくはなかった。

私は店長のアカウントをフォロー欄から探し、「いままでお疲れさまでした」となんとも没個性で形式的ともとれるリプライを投げた。

すると店長は「やべくん!いままでありがとう!いつもブラックルシアンとかテキーラとか飲んで楽しく遊んでくれたね!またいつか!」といった返信をしてくれた。

 

その数時間後には店長のアカウントは削除されていた。

 

ある日、会社の飲み会のあとで一人ふらついていた私は、店長のいなくなったアニソンバーに足を運んだ。

店の前で気づく。

静かだ。

仮にも土曜日の夜である。いつもならオタクたちが半音ずれたアニソンを熱唱しているはずだ。

店に入ると客はいつもは10人以上いる客は2人しかいなかった。もちろんあの店長はいない。

 

「はじめまして!何を飲まれますか?」

 

そう言ってきた店員はいつもいる人だった。

 

は?

 

別に「いつもの」でブラックルシアンが通らないことは仕方ないと思うが、それ以前に名前すら憶えられていない。

そんなわけはない。だってこの店員も私の名前を呼んでいたからだ。

 

そこで気づいた。

 

店長はカウンターの中でよく店員を呼んでは指示をしていた。何を言っているのかは聞こえなかったが、今のこの状況を考えると想像ができた。

店長は店に来客があるたびに店員に、その人の名前などの情報を教えてくれていたのだろう。しかも、その店員と客が初対面ではないと把握した場合のみ。そして初対面の時だけ自己紹介をさせていたのだろう。

 

だから久しぶりに会う店員でも自己紹介はしないし名前も読んでくれていたのだ。

 

店内を見渡すと、大量に置いてあったフィギュアやぬいぐるみがなくなっていた。

きっと店長の私物だったのだろう。

そこは静かで何もない空間だった。

フィギュアもぬいぐるみも、歌も、客と店員との関係性も。

 

私はそのアニソンバーに行くのを辞めた

 

いや、きっとほかの客も私と同じなのだろう。同じ体験をしたのだろう。

オタクは0からの人間関係の構築のハードルが超えられない人が多いと思う。店長がせっかく下げてくれたハードルがなくなり、また最初からやり直しになってしまってはひとたまりもない。

 

今の店長が誰なのかも、どんな人なのかもしらない。

けれども、もう行こうとは思えなかった。

 

twitterが消えてしまってはコンタクトのとりようもない。失ってから気づいた店長の尊さに感謝を述べることすらできない。彼女の体調が回復することを祈るばかりだ。

 

余談ではあるが、私が通っていた店舗の地下アイドルグループは今年度で解散らしい。

アイドルも、お客もいなくなったその店はいつまでもつのだろう。私にはもう関係のないことであるが、それでもどこか寂しいとも感じる。

 

私は行きつけだったアニソンバーの店長が辞めて行くのを辞めた。


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